「哲学的に言うと」とか、「哲学的な関係を明らかにする」とか、色々な場面で「哲学」っていう言葉を目にします。この「哲学」って言う言葉、自分で使える人ってどのくらいいるのでしょうか。私が不勉強なだけかもしれませんが、「哲学」ってなんだかよくわからない、難しいもので、正直しっかりと定義することは私にはできませんん。使う人によって、含まれる意味もきっと変わるように思います。
昨日のブログで太極拳では、「意」「意念」が大切だと言う話を書きました。単純に置き換えていいのかわかりませんが、今日は、この「意」と言うのは、「意志」のことだと考えて、さらに考察を加えてみます。
きっかけは、初めに書いた「哲学」っていう言葉に対する自分の不理解を解消したくて、中島義道氏の「哲学の教科書」を読んだことです。この本の中に、「哲学の問いとはいかなるものか」と言う章があり、その中の一つに、「意志という謎」という一節がありました。ちなみに、意志以外に、哲学的な問いとして挙げられているものは、時間、因果関係、私、他人、存在です。この本の中では、それぞれが哲学的にはこういう意味があるのだ、という答えは与えてくれていません。なぜ哲学的な問題になりうるのかの説明を丁寧にしてくれています。
さて、今日の話題の「意志」ですが、普通に考えたら、「頭の中で思ったこと」って考えそうです。頭の中でこう思ったから、身体がこう動いた、っていう表現、何も疑問を感じないのが普通です。太極拳で「意」が重要だと言われると、まずは頭の中で動きを思い描いて、それから動くように、といった理解をしがちだと思います(十分に学びきれていない私だけかもしれませんが。そうであれば、ぜひお叱りください)。
「哲学の教科書」では、「意志」を「行為を引き起こす独特の「原因」として理解されるときに登場してくる。。。言葉」としています。それは、内的な心理作用よりもずっと観察可能な行為の外形に結びついている」としています。
たとえば、少年が少女を殺害してしまった殺人事件があったとしましょう。裁判では、往々にして、「殺す意志の有無」が争点となります。このとき、少年の記憶を判断材料にして意志の有無を論じるのは無意味です。少年がいくら「殺す意志はなかった」と主張しても、それをそのまま信じる人はいないでしょう。殺す方法、動機の有無、現場の環境などなど、外的な要因によって意志の有無って判断されるのが普通だと思います。
「「自分の」意志とは、実は自分一人で決められるものではない。それは、少なくとも可能な他者との共同作業によって、さまざまな要素を加味して社会的に意味づけてゆくものなのです。」
こんなふうに「意志」を理解してみると、太極拳で重視される「意」も同じなのかな、って気がしてきました。套路をやっている当人がいくら、「意」を持っていると主張しても、それが、周りの人が、その人の動きから「意」が伴っているかを判断して、初めて決まるものなのかもしれません。したがって、「意」があると認められるためには、動きが求められている通り正確にできていることはもちろん、その動きが実際に何を意味しているかを実際の動きを通じて表現できているかどうかだ、っていうことにならないでしょうか。
別の本で読んだ記憶があるのですが、身体は頭で思ったようには動かないそうです。確かに、太極拳を教えていて、頭では理解できているはずなのに、身体がついてきていない、っていう例を見ることはよくあります。前にブログで書いた一人ジャンケンなんかもいい例だと思います。
思ったように身体が動く保証がない中で、「意」の先導性の重要性を解くことは、「意」は「あるべき動きを理解して、それが正確にできるようになるまで練習をして、動作を行う前にそれらを瞬間的に思い描くこと」である、って考えると、今の私にはちょっと納得感があります。
でも、求められている内容が十分な客観性を持てるかとうかは疑問が残ります。太極拳が芸術であるとすると、教える立場の人、見ている人、それぞれで異なった動きに対する要求を持っている可能性は十分にあります。こんな考えを突き詰めてしまうと、「意」を持っているかどうかの判断は、演者が評価をしようとしている人の求めていることを正確に理解して、その通りに体を動かせた時に初めて認められる、なんてことになりそうです。
ここまで行ってしまうと、ちょっと極論ですね。落とし所としては、評価をしている人が、本人がどう思っているかとは別に、演者が何をしようとしているのかを感じられたときに「意」があると評価する、ぐらいでやめておくとにします。
こんな考え方が正解なのかどうかはわかりません。特に、「意」と「身体の動き」の関係だけに話を止めておくと、それなりに納得できるのですが、「意」と「気」の関係を考え始めると、ちょっと不安になります。師匠にこの質問を英語でするのも面倒なので、このまま自分の頭の中で継続的に考える問題としておきます。
これからもいろいろな話題を紹介していきます。
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